中原昌也『待望の短編集は忘却の彼方に』

 中原昌也、この作家のどこが良いのかと言われても、困るのだけれど、さしあたり、書くことに対する後ろめたさが好きとだけ言っておきたい。例えば、こんなところ。

「いや、作家なんてもうとっくに廃業していますよ。当然です。うまく編集者や読者をだましてやってきましたが、所詮ニセモノは長続きしません。だいたいいまの世の中、文学だなんて言っている連中は全部サギ師か傲慢で低能な金持ちのボンボンかヒモか石原慎太郎みたいな最悪な連中の仲間ですよ。僕にしてみればそういう人間は通り魔だとか殺人犯みたいに理解不能な人種と一緒で、区別がつかない・・・なにより世の中の人がかんがえているほどにはお金にはならないですからね、小説なんて。バカバカしくてやってられません。はっきり言って今の日本人は、誰一人として文学なんて必要としていません。だって石原慎太郎みたいなのがのさばってたり、亀井や江藤といった非常に不愉快で胸糞の悪い連中が偉そうにしているような国ですから、そんなものは必要ないでしょう。バカバカしいですよ。ああいう手合いがテレビに登場しているのを見るだけで日本という国が大変恥ずかしい国のように思えて仕方がない・・・何が文学だ、何が文明だ、社会だ、平等だ、善意だ、という感じですよ。
(「お金をあげるからもう書かないでと言われればよろこんで」)

 立ち読みしたスパによれば、この作品集の仮題は「石原慎太郎を殺すために記す」といったものだったらしい。そういったところも、とてもよい。