廊下の感触

エレファント デラックス版 [DVD]

エレファント デラックス版 [DVD]

 十代の頃のことはほとんど記憶の彼方で、あんまり十代の人と話をしてもかみ合わないので、話したくないのです。だから、先生とかやっている人は大変だろうな、と思うわけですが、この映画を観ていて、そういえば、って感じで思い出しました。

 この映画の長廻しというか、ひとりの人物をずっと追っかけていくという映像は、それなりの伝統があって、他の映画とかでも使われていたな、というか、そういうことはさておいて、この映画で長廻しがなんで使われているかと考えると、個人的には、冷たくて清潔な廊下を撮るためだったんじゃないかと、そういう感想がありました。つまり、廊下をゆっくりと歩いていく少年少女たちはどうでもよくて、この映画の本当の主人公は、冷たく光を反射する廊下なのではないかと考えるのです。

 それは、たぶんに自分の記憶と関連していて、高校生の頃のことを思うと、個別的な人たちのことはあんまり思い出さなくて、むしろ、人がいない廊下だとか日陰になった校舎の裏側だとかを思い出すためなんだろうと思います。
 なんで、そんなへんなものを思い出すのかといえば、あの頃というのは、ほとんど窒息されそうな感触があって、でも、自分が何によって窒息させられそうになっているのかが正確なところ分かっていないものだから、ついつい視覚に頼って、自分を囲っている廊下だとか校舎だとかに奇妙な圧迫感を感じていると誤解してしまったというのがあるんだろうと思われます。つまり、僕が高校のことを思い出すとき、最初にあたまをよぎるのは、あの頃の窒息させられそうな感じであり、それが記憶の関連のなかで、廊下という具体的なものと繋がってしまっているということなんでしょう。

 そういった意味で、この映画を観ていて、久しぶりに、あの首を絞められるような感触を思い出して、それはそれで懐かしかったです。やっぱ、十代って、苦しいよね。