再度、死者の言葉

 『14歳』において、井田は、アメリカの十代の売春婦ないし薬物中毒者(ストリートサヴァイヴァー)を取材する過程の中で、そのような人間たちを援助するNPOの主宰者に対して、日本の現状をどう思っているかと尋ねられ、こんな風に答えている。

 もう家庭も家族も、親も子供たちも、少ない例外を除いて、ほぼ壊れたんです。壊したのはほかならず私たちで、私たちは取り返しのつかないことをしたんです。まず、それを認めることです。
 すべては、まず取り返しがつかないほどまでに壊れたんです。
 私たちの大半は廃墟の中にいる。それを自覚する。廃墟の中でどうやって生き延びるのか。それが問題です。難問だけれども、たったひとつの希望は、私たちの多くが廃墟の中にいるということです。
 まずは、自分が廃墟の中にいるとみんなに言うことですね。しかし生き延びようとしていると言うことです。

 『かくしてバンドは鳴りやまず』の連載は10回で終わる予定だったという。しかし、井田はその三回だけを書き終えて、そのあまりにも短い人生を終える。その意味で、この作品は、それを読む者に、井田は死者のつぶやきに耳を傾けるがあまりに、死者の世界に引き込まれてしまったかのような印象を与え、少なくても、この連載が終わるまでは生きていて欲しかったと、無念な気持ちを抱かせる。
 しかし、それでも、彼女の言葉はその書物の中に刻まれて僕たちに届けられる。そして、その中には、今、引用したようなタフな言葉も残されている。
 その言葉を受けて、僕たちは呟く。彼女は死んでしまった。でも、その言葉はいまだにサーヴァイブしている、と。
 
かくしてバンドは鳴りやまず