痙攣とチンパンジー

 これから書くことはすべてフィクションとして読んで欲しいのだけれども、まず、職場の隣の席の人の震えがある。
 彼は三十分ほどのあいだに1回ほどの割合で、からだをガタガタと揺らす。今、「揺らす」と書いたけれども、それは痙攣に近く、「カタカタカタ」というリズムといったほうが正しい描写になる。そして、事務用のステンレス製の机の引き出しに彼の膝があたって、その度ごとに、それにあわせて、机が細かく震えだす。そして、当然ながら、隣にある私の机も震えだす。カタカタカタカタカタ・・・。
 別に、私はそれに腹を立てているわけではない。むしろ、気の毒に思う。彼は、まず、鬱病になり、そして、それを紛らわせるために、アルコールを浴びるように飲んだ。そして、そういった人たちに場合によって見られるような経路を辿って、からだがガタガタになり、検査した時には、ガンマGPAが1000を超える数値になっていた。付け足すならば、ガンマGPAとは、通常の人ならば、3桁で死んでしまう数値だ。
 当然ながら、彼は病院に入る。そして、今、彼は病院から出てきて、職場復帰を試みている。からだが痙攣したところで、彼を責めるわけにはいかないだろう。そんなの生理現象だ。誰であれ、そういった状況に理不尽に巻き込まれて、泥濘に足をとらわれてしまうことはある。
 とはいえ、チンパンジー似の哀れな上司は、それをなかなか理解できない。理解できないというよりも受け入れることができないのかもしれないが、ともかく、その様子を見て、苛々している。彼が復帰してきて最初の頃には、復帰してすぐだというのに、「体力が落ちちゃっているから、一緒に出張してくる」と彼を引きずり廻していた。当然、彼はへたばる。へたばって、痙攣が激しくなる。そして、一週間に何度か、上司は彼と一対一の面談をする。戻ってくると、彼はふたたび痙攣をする。