読んだ

不在

不在

 宮沢章夫の『サーチエンジン・システム・クラッシュ』以来の新作。
 正直あまり感心しませんでした。田舎とも郊外ともつかない場所の不可解さを取り上げるところは、なかなか良かったとも思えるのですが、それにしても、中途半端な感じがあって、その中途半端さ自体が舞台とされる空間を貫いている「中途半端さ」とシンクロしている、と好意的に読もうとすれば、そうすることもできるけれども、それならば、もっと暗い笑いが欲しいところだし、なによりも、この話を何処かで読んだことがあるような気にさせるところが、「いかにも」という気にさせ、貴重な時間を割いて読んでいるのに、という感想さえ抱かせるのでした。
 もちろん、この本が書かれた必然性というのはあるはずで、僕は演劇は見ないので、この人の小説とエッセイしか知らず、その意味で、この本をこんな風に貶してしまうというのはフェアーだとはいえないかもしれないけれど、やっぱり、ちょっと物足りなかった。
 一点だけ褒めるとすれば、『サーチエンジン・システム・クラッシュ』の同じところをグルグル廻っているかのような感じの文体と物語が非常に心地よかったのと同じように、今回の作品の話法のねちっこさと、時制の捻じれは、なかなか技術的に優れているとも思いました。まあ、文庫になったら、買ってもよしという程度ではあります。