アルゼンチン2−1コートジボワール

 ワールドカップに限ったことではないけれど、アフリカの選手が出てくると、身体能力が高い、という話になる。そういった物言いは、「でも、あいつらは、身体能力だけだから」という意味も含んでいることもあって、それはそれで健全な話ではない場合もある。
 とはいえ、コートジボワールドログバを見ていると、身体能力のことを考えざるをえず、でも、あらかじめ言っておくと、これは、もちろん、ドログバがそれだけの選手であるということを含意しているわけではない。ドログバは、普段、チェルシーの選手で、チェルシーといえば、戦術的な規律がもっとも厳しいチームのひとつだ。あたまが良くなければ、あのチームでトップの一角を委ねられるわけがない。
 それに、コートジボワールというチーム全体を見てみても、戦術がない、なんてことはなくて、むしろ、約束事は明確にされているようにも思えた。例えば、真ん中にボールをあてて、その選手が溜めているあいだにサイドに走りこむ、といった作業は、90分のあいだ徹底されていたようにも思われる。
 そういったことを踏まえた上で、それでも、やはり、彼らの恐ろしいほどの強さ、高さ、速さに目がいってしまう。コートジボワールが点をとった瞬間を思い出してみて欲しい。
 まず、右サイドにボールが流れた。かなり強めのパスだったから、間に合わないのではないか、と予想されるけれども、右サイドの選手は追いついてしまう。速い。ともかく、速い。そして、センタリング。
 そのボールは、ドログバのあたまをかすめて、左サイドの選手にわたる。ボールは弾みすぎていて、彼は、頭で処理するほかないのだけれども、それを前方に勢いよく押し出すようにする。ボールは、ゴールラインを割るような雰囲気だ。確かに、そうでもしなければ、ポジショニングに長けたアルゼンチンの選手を置き去りにすることはできないのは分かるけれど、ちょっと、やりすぎなんじゃないかと思う。ミスなんじゃないか、と。でも、彼は追いつく。追いついて、鋭い足元へのパスを折り返す。
 これだけでも、充分に驚異だった。けれども、それだけで終わらない。最後に、ドログバが後ろに下がりながら、シュートを打つ。後ろに下がりながら、前にシュートを打つ、というのは、とても難しい。重心がぶれてしまうからだ。でも、ドログバはそれを易々とやってしまう。しっかりと左足を踏みしめ、そして、右足を強く前に押し出す。
 この一連の流れを見るだけでも、彼らの強さ、速さ、高さに見とれてしまう。そして、そういったプレイのひとつひとつに、僕たちは、何と言うか、夢のようなものを見たような気になる。ファンタジーを感じてしまう。サッカーはそれだけではないけれども、でも、その瞬間は、これだけあれば、別になにもなくて良いんじゃないかと思ってしまう。
 そのくらいに彼らのプレイは美しかった。アルゼンチンと共に、ぜひ決勝トーナメントに進んで欲しいと思う。